K先生とT君のMIDIオーケストラ教室 1


最近、MIDIの打ち込みでオーケストラに取り組んでいるT君。MIDIオーケストラ研究家のK先生に弟子入りする事になった。今回は、MIDI演奏を、よりリアルに仕上げるためのポイントについてざっと勉強しよう。

今回、T君には宿題が出されていた。EDIROLのソフト音源HyperCanvasで、ブラームスの交響曲第1番第1楽章の冒頭部分を作ってくる事。


T「先生、ブラ1やってきたんですけど、どうもシンセっぽいというか、リアルに聴こえないんですよ。」
K「どれどれ、早速聴いてみよう。」

サンプル1

K「ううん・・。データは巧く打ちこんできたね。でも、確かにシンセっぽいね。」
T「どうしてなんでしょう?やっぱ、音源が悪いんじゃ?」
K「そうやって、すぐに音源のせいにする人多いけど、そういう人は、どれだけいい音源使っても無駄だね。」
T「いい音源使ったら、リアルになるんじゃないですか?」
K「そっれぽくはなるけど、ただいい音源使っただけではだめなんだ。」
T「そうなんですか・・。」
K「今回使ってもらったHyperCanvasは、確かにオーケストラ専用の音源じゃない、汎用の音源だけど、音のバランスが良いので基本を学ぶにはちょうどいいんだよ。」
T「応用しやすいんですね!」


K「とりあえず、余計なエフェクトを全部外そう。エフェクトというのは、人工的なものなので、特に音源付属のエフェクト等は質も悪く、掛けると帰って不自然になるんだ。思い切ってエフェクトを全部外してしまおう。」

サンプル2

K「どうだろう?意外とリアルな音だろう?」
T「そうですね。」
K「特にしょぼい音源ほど、このエフェクトを外すと意外とリアルな音だったりするんだ。」


K「それじゃあ、データに手を入れてみようか。」
T「はい。」
K「まずは、楽器の配置を考えよう。オーケストラって、配置が決まっているよね。」
T「第1ヴァイオリンが左側で、第2ヴァイオリンが真中やや左側で、チェロが真中やや右寄りで、ヴィオラが右側で、コントラバスが右奥。」
K「そうだね。オケによってはチェロとヴィオラが逆の場合もあるよね?」
T「そういえば、ヴィオラが真中やや右寄りで、チェロが右側のオケもありますね。どっちが正しいんですか?」
K「どっちが正解というわけじゃないよ。それぞれ特徴があって、チェロが真中やや右寄りで、ヴィオラが右側の場合、ヴィオラが前に来るので、ヴィオラの美しい響きが活きて、内声の充実した響きが特徴。ヴィオラが真中やや右寄りで、チェロが右側だと、チェロが前に出て、コントラバスと一体化した響きになるので、低音よりな響きになるね。最近はチェロが真中やや右寄りで、ヴィオラが右側に配置する場合が多いね。バランスがいい。逆にヴィオラが真中やや右寄りで、チェロが右側というのはアマチュアオケになぜか多いね。ちょっと古臭い気はするね・・。」
T「あのー、時々ヴァイオリンを左右に分けてる場合があるんですけど、あれは何なんですか?」
K「昔は、ヴァイオリンを左右に配置するのが普通だった。実際、ベートーヴェンやマーラー等、ヴァイオリンを左右に配置するのを前提に曲を書いているからね。その当時の音を再現しようとする試みが、いわゆる両翼配置といわれる、第1ヴァイオリン左、第2ヴァイオリンが右、チェロが真中左寄、ヴィオラが真中右寄、コントラバスが左奥に配置するやり方。ヴァイオリン通しの掛け合いが楽しめる。」
T「じゃあ、なんでみんなそうしないの?」
K「ううん・・。視覚的な事や、音のバランスの問題等から、両翼配置はほとんどされなくなったんだけど、最近、ベートーヴェン等をやる際には両翼配置が一般的になってきたね。」
T「それと、前に大植指揮の大フィルでコントラバスが真後ろにズラッと並んでたんですけど、あれは何やってるんですか?」
K「ははは。ロックやポップスなんかは、ベースを真中においてやると、ずしっと低音がまとまるんだけど、それと一緒で、コントラバスを真後ろに並べると、芯のある低音が出るね。」
T「そうなんですね。」
K「後、弦楽器の後ろに木管。フルートが左、オーボエが右。その後ろにクラリネットとファゴット。さらに後ろに金管。左からホルン、トランペット、トロンボーン、チューバというのが一般的だね。」
T「ティンパニは一番後ろの真中か、右奥ですね。」
K「大体そうだね。じゃあ、その事を念頭において、左右のバランスを調整してみて。」

サンプル3

T「ばっちりでしょ!」
K「・・・ううん・・・、極端だね。」
T「ええ??ちゃんと配置しましたよ。」
K「これじゃあ、オーケストラが左右に真っ二つに分れてて、真中にはティンパニしかいない〜みたいな変な配置だね。」
T「言われてみれば・・。」
K「オーケストラって、真中が一番厚い響き。真中を基準にして音を配置してやるといい。具体的には、第2ヴァイオリンとチェロを出来るだけ真中にしてやって、第1ヴァイオリンとヴィオラは極端にならないように、真中辺りでもちゃんと聴こえる範囲で左右に振ってやる事。後の楽器も、極端にならないように気を付けよう。じゃあ、実際に私が調整したのを聴いてみてごらん。」

サンプル4

T「なるほど、自然ですね〜。」


K「次に、各音のバランスを整えてやろう。これが一番重要なんだ。いろいろMIDIオーケストラ聴くけど、これが下手で損してる人が多いね。」
T「迫力があったり、なかったりなるんですね。」
K「とりあえず、やってごらん。」

サンプル5

T「迫力を出してみました!!」
K「(笑。)迫力を出したいのは分かるけど、単にティンパニがデカいだけだね。」
T「言われてみれば・・。」
K「基本的にオケの音というのは、各楽器の音がほぼ同一になるバランスが最適なんだ。なので、その辺を念頭に置いて、バランスを整えていこう。特に、弦楽器が小さくなりがち。だけど、実際のオケは、弦楽器は約40〜45人位の人数だから、意外と音が大きいんだ。また、弦楽器の中でもちゃんとバランスを整えてやる事が重要だ。その辺を考えて調整してみたから聴いてみて。」

サンプル6

T「ちゃんと、オーケストラ全体で鳴っていて迫力出ましたね!」


K「これでほぼ完成なんだけど、ここからはよりリアルに聴こえるためのテクニックだ。」
T「よろしくお願いします。」
K「まず、音を見直してみよう。サンプル6まで、弦楽器は全てStorings1の音を使っていたのだが、特に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの音が共鳴して汚く響いているので、第2ヴァイオリンとチェロの音を60'Storingsの音に変えてみた。」

サンプル7

K「特に高音の響きが奇麗になっただろう?」
T「そうですね。」
K「音源には、いろんな種類の音が入っているので、適材適所でいろんな音を使ってみよう。特に、弦楽器で同音が重なる時は、それぞれ別の音を使うようにしよう。」
T「そうします。」


K「さあ、次は、サンプル7に残響音を加えてやろう。」
T「このままじゃドライな音ですもんね!」
K「残響音はエフェクトを掛けるわけで、可能な限り優れたリバーヴを掛けてやる必要がある。今回は、インパルスレスポンスという実際の音響を録音したデータを使って残響処理をする、非常にリアルな残響を加える事が出来る、SIRというプラグインを使ってみよう。インパルスレスポンスは、あるホールの録音のものだ。さっそく、掛けてみて!」

サンプル8

T「うわぁ〜!むっちゃ不自然になっちゃいました〜〜。」
K(ワザとか、こいつ!?)「掛け過ぎは禁物!!そもそも、残響音って、何のために掛けると思う?」
T「気持ちよく響くようにするためじゃないですか?」
K「NOだ!残響音を加える意味を勘違いしたらいけない。」
T「えっ!?違うんですか?」
K「残響音は本当は無くても良いくらいだ。その方が音自体はリアルになる方が多い。でも、オーケストラっていうのは100人近い奏者の音の集まり。その音がバラバラに聴こえたんではハーモニーが美しくならない。つまり、残響音を加えてやる事で、全ての音に一体感を出してやる事が目的なんだ。結果的に、音も気持ちよく響くし、迫力も出る。」
T「なるほど!そうなんですね。」
K「それを頭において、残響を加えてみた。」

サンプル9

T「わぁ〜、なんかとってもリアルになりましたね!!」


K「最後に、掛けるだけで凄いリアルになる魔法を紹介しよう!」
T「なんですか?それ!」
K「実際の生楽器の演奏は、その場の空気を振動させ、臨場感を生み出す。特に、オーケストラというのは、ホールの空気を揺るがして、あのような迫力を生むわけだ。」
T「それで?」
K「音源というのは、基本的にその部分が足りない。どうだろう?いくらリアルな音源を使っても、なんか本物の演奏の録音のような臨場感や迫力が出ないという人は多いんじゃないだろうか?」
T「僕もそう思います。」
K「そこで、その空気感を加えてやる事で圧倒的な迫力と臨場感を生む魔法を掛けてやるわけだ!」
T「でも、先生は魔法使えるんですか?」
K「使えるわけない!!しかし、魔法のエフェクトならある。」
T「ま、魔法のエフェクト!?」
K「それは、真空管アンプシミュレータといわれる、真空管アンプに通した音を再現するエフェクトで、本来はギターやベースのアンプとして使われるんだが、こいつを軽くMIDIオーケストラに掛けてやると、ほんと魔法のような効果が出る。今回、ModernAnalogerTurboというのを使ってみよう。じゃあ、掛けてみるよ。」

サンプル10

T「すげ〜、本物だ。」
K「HyperCanvasという汎用の音源でもここまでの事は出来るという事。」
T「こんな音源じゃだめだと思ってたのに!」
K「音源が悪いと嘆く前に、まずは最善の努力をしよう!HyperCanvasよりリアルな音源を使えば、当然、もっとリアルになるわけだ。」
T「よし、がんばるぞ!!」



MIDIでオケをやるのは、確かに細かな打ち込みのテクニックは重要だけれども、それ以上に、ミックスやエフェクト処理が重要である。また、K氏の長年の研究によると、エフェクトについては、基本的にリバーヴ(出来ればインパルスレスポンス対応)と真空管アンプシミュレータの2種類だけで良いというのが結論である。


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